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 菜の花畑事件簿〔後編〕 

 

 これから私は、バスで4時間程離れた曲靖という町に行って、パスポート紛失証明書を発行してもらわなければならない。羅平のバス停留所に預けていたバックパックの中に入れてあった、パスポートのコピーが後で役に立った。昼過ぎに曲靖の警察署に着いた。ここには英語が話せる女性警官がいた。「今日発行される紛失証明書を持って、このあと日本領事館へ行ってください。」「雲南省に日本領事館は無いですよね?」「はい、重慶か、次に近いのは広州ですね。」…あぁ、本当は日曜に帰国して月曜から仕事の予定だったのに。いったいいつ帰国できるんだろう…?気が遠くなりそうだった。申請書を提出して待っている間に、盗まれたクレジットカードの会社に電話した。羅平からは国際電話がかけられなかった為翌日の連絡となったが、奴はきっとクレジットカードの使い方さえ知らないだろうと思っていたので、カードが不正に使用される心配はしていなかった。気が付けば、今日は金曜日。土日は領事館が閉まっている。そう思った私は、月曜は朝何時から何時まで開いているのか聞こうと、重慶の領事館に電話した。事情を話すと、相手の領事(以降Tさん)はこれから帰国するまでの手順を丁寧に教えてくれた。まず、昆明に戻って重慶までの列車の切符を手配する。→日本の両親に連絡して、重慶の銀行にパスポート送金をしてもらう。→重慶に着いてから渡航書を作る。→送金してもらったお金で航空券を買って、日本へ帰る。ということだった。「帰国できるのはたぶん木曜か金曜くらいになると思うけど、こうなってしまった以上慌てず、重慶で渡航書ができるのを待っている間、観光でも楽しむくらいな気持ちでいて下さい。今夜昆明に着いたら携帯のほうに連絡ください。」といって、Tさんは番号を教えてくれた。夕方5:00になって、やっと紛失証明書ができあがり、急いで昆明行きのバスに乗り込んだ。ちなみにこのバス代と電話料金は、バックパックの中に隠してあった130元(約1800円)の中から支払った。次回からもうちょっと増額しよう…。羅平から曲靖までのバス代は、どうも警官の1人が支払ってくれたようで、請求されなかった。

 昆明に到着したのが、夜8:00。日本から昆明に着いた日にも泊まった茶花賓館へ向かった。ここは昆明のユースホステルで、ドミトリーなら1泊30元(約420円)で泊まれる。ホテルに到着したらまずする事、それは、重慶行きの切符を買うお金を誰かに借りることだ。実はTさんが、「昆明に僕の知り合いがいるからその人に…。」とは言ってくれていたのだが、非常に頼みにくそうだったので、「きっと昆明のホテルに泊まっている日本人宿泊客の誰かにお借りすることができると思います。」と、何の当ても無いのに言い切ってしまったのだ。でも、何となく誰かが貸してくれそうな予感がしていた。ホテルの服務員に、ドミトリーの宿泊客名簿を見せてもらい、日本人を探した。旅行初日にホテルで出会った日本人の誰かが泊まっていたら、少しは頼みやすいんだけど。Y……。あ、見つけた!私は彼の泊まっている部屋のドアをノックした。「はーい。どうぞ。」「失礼します。」私がドアを開けると、そこにはぎっくり腰でベッドい横たわっているYさんがいた。すごく歩きにくそうにYさんは立ち上がり、一緒にロビーへ行って私の事情を説明した。私は過去にも何回か海外一人旅をしたことがあったが、今まで一度も四国出身の人に出会ったことはなかった。それなのにこのYさんは、なんと同じ愛媛県在住の方だった。彼は快く現金1000元を貸してくれた。「過去にも2〜3回旅行中の日本人にお金貸したことあるけど、さすが日本人、後で全部きっちり戻ってきたよ。」と笑顔で言っていた。「本当にありがとうございます、Yさん。」Yさんも同じく雲南省の田舎を旅行していたのだが、凸凹道を走っているバスに乗っていた時、くしゃみをした瞬間、ぎっくり腰になってしまったそうだ。あと一週間程昆明で養生してから帰国すると言っていた。それから私は、Tさんに重慶までの切符代を借りることができたと報告、両親にも盗難に遭ったことを、FAXで連絡した。お腹がすいた…。金が無かったので、今日は朝の羊肉米線以外何も食べていない。夜10:30になって、やっと食事にありつけた。

 翌朝、近くの旅行代理店に行って、重慶行きの列車の予約をした。運良くその日の午後2:30発の列車に空席があったので、再度Tさんに到着時間を連絡して、昆明駅へ向かった。重慶までは21時間の予定だったが、結局列車は翌日の午後2:30に到着したので、丸一日かかった。重慶と言えば、サッカー・アジアカップの試合で、中国人サポーター達の日本チームに対するヤジが凄まじかったのを思い出した。さぞかし反日感情の強い場所なんだろう。駅からTさんに電話して、これからタクシーで建物の中に日本領事館があるホテル・重慶賓館のロビーで待ち合わせることになった。早速タクシーを拾おうとしたが、重慶の駅周辺の道はガードレールだらけで、複雑に交差していた。いろんな所でタクシーに声をかけたが、「重慶賓館まで。」と言うと、「それならあっちでのれ。」「向こう側で乗れ。」と、皆バラバラな方角を指差して、丁寧に教えてくれない。30分以上も駅周辺をウロついて、やっとの思いでタクシーを1台捕まえた。私はドライバーの話している会話の内容の半分も理解できなかったが、えらく陽気な人で、ホテルに着くまでずっと1人でしゃべっていた。「なぜ重慶に来たの?」と聞かれたので、事情を話すと、タクシーを降りる時に、「料金はいらないよ。」と言ってくれたのには驚いた。重慶にも日本人に親切にしてくれる人はいるもんだ。もちろん、代金はちゃんとお支払いした。

 ホテルのロビーで、Tさんに会った。日曜日だというのに、私の為にわざわざ領事館まで出てきて、月曜の朝、領事館が開いたらすぐに申請の手続きができるように、といろいろな準備を手伝ってくれた。まずは渡航書用の写真撮影。丸一日列車に揺られて、シャワーも浴びてない私の顔写真からは、旅の疲れがにじみ出ていた。次に、申請に必要な書類数枚を渡され、今夜中にホテルで記入することになった。ホテルは重慶賓館(4★)に泊まることになった。今までの安宿とは大違いだ。Tさんが一生懸命値切ってくれて、1泊170元(約2400円)になった。それから一旦Tさんにお礼を言って、一旦別れた。重慶賓館は、私が今までに中国で泊まったどの宿よりも高級で、洗面所にドアとトイレットペーパーが着いていることにさえ、初めは驚いていた。部屋で書類に記入していると、再度Tさんから電話がかかった。「ちょっと状況が変わったので、ロビーまで来てもらえますか?」話を聞くと、パスポート送金という方法は、中国ではとれない手段だという情報入ったそうだ。となると、どうやって日本までの交通費を工面するかという、新たな難問が発生した。Tさんは、「個人的に貸してもいいんだけど、前に別の日本人旅行客にいくらか貸した時、そのままお金が戻ってこなかったことがあったから、あなたのことは99%信用してるんだけど…。」と言って言葉を濁していた。領事館から貸すという方法もあるが、それはそれは大量の書類を提出しなくてはならないそうだ。しばらく考えて、思い着いた。「Tさんの日本の銀行口座に、家の両親からお金を振り込んで、その振込証明書をFAXで領事館に送ってもらって、それと同額分のお金をTさんから中国元で受け取る、というのはどうでしょう?」「それだ、それにしよう。」

 翌日月曜日、領事館に振込証明書がFAXで送られてきた。関空までの航空券以外に、関空に着いたら関空から松山までの航空券も購入しなければならなかったので、中国元と日本円の割合を計算して、両方のお金を受け取った。少し余裕を持って、中国元のほうを大目に見積もって渡してくれた。「もし余しても、どうせまた中国来るでしょ?このくらいでもう来ないなんて言うような人じゃないよね?」なんてことを言われてしまった。Tさん、会ってほんの2日しか経ってないのに、私の事良く理解してるなぁ。それから渡航書の申請受付が始まった。領事館の中国人スタッフの方達も、非常にテキパキと動いてくれて、なんとその日の午前中に渡航書が完成。午後から入境管理局に行って、入国審査の手続きをした。これも領事館のスタッフが、事前に電話をして急ぐよう言ってくれてたので、夕方5:00、管理局の閉門と同時に入国査証を受け取ることができた。帰国便の手配は、午前中に領事館のスタッフがしてくれた。明日帰れるっ!曲靖で、重慶の日本領事館に行けと言われた時は、まさかこんなに早く帰国できるとは思っていなかった。領事館と言えば御役所、御役所と言えば仕事が遅い、というイメージがあったからだ。これも全てはTさんとスタッフの皆さんのおかげ。

 そして翌日、いよいよ帰国できる日がやってきた。Tさんは、この日から北京に出張で、私より一足先に飛び立った。朝11:00発の飛行機で、上海虹橋空港へ。経由便ではなかった為、バスに乗り換えて上海浦東空港まで行って、関空行きの飛行機に乗った。関空に着いたのは夜9:30。その日は大阪の知人の家に泊めてもらい、翌朝一番の飛行機で松山へ帰った。家に帰ってすぐに支度をし、午後から職場に復帰した。

 今回のたびでは、散々な目に遭わされたが、その後、たくさんの良い出会いに恵まれ、ケガをすることもなく無事帰国することができた。旅先でお世話になった皆様、本当にありがとうございました。この場をお借りして、心よりお礼申し上げます。

 

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